大判例

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最高裁判所第一小法廷 昭和50年(あ)1076号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人郷路征記、同三津橋彬、同今重一連名の上告趣旨のうち、憲法二三条違反をいう点は、原判決は、原判示第二の被告人らの滞留行為の目的は集団の実力で北海道大学学長のいる事務局庁舎に入り、集団の勢威を背景にこれを利用して強いて同学長に会見し交渉することにあつたというほかないと認定し、相当性を欠くとしているものであるから、原判決の学生の交渉権に関する所論法解釈の当否が原判決の結論に影響するものでないことはその判示自体において明らかであり、判例違反をいう点は、所論引用の仙台高等裁判所の判決は、当裁判所の判決(昭和四六年(あ)第一八七六号同五〇年一二月二五日第一小法廷判決・刑集二九巻一一号一〇〇七頁)により破棄されているから、刑訴法四〇五条三号にいう判例にあたらず、その余は、憲法三七条二項違反をいう点もあるが、その実質はすべて単なる法令違反、事実誤認の主張であつて、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由にあたらない。

よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。

(団藤重光 下田武三 岸盛一 岸上康夫)

弁護人郷路征記、同三津橋彬、同今重一の上告趣意

上告理由その一〈略〉

上告理由その二

原判決は、「最高裁判所の判例がない場合に、控訴裁判所たる高等裁判所の判例と相反する判断をしたことが明らかである。

すなわち、原判決は「大学内における学生の地位、役割等については、種々の議論が存するにしても、学生が対等の対立当事者の立場に立つて、大学当局に対し、大学の管理、運営、学内における研究、勉学、及び生活の条件等につき、交渉を要求することができ、大学当局がこれに応じなければならないとする実定法上の根拠はなく、また本件当時、北海道大学においてそのような慣行ないしは学内与論の一致があつたともうかがえられない」として、学生の交渉権を全面的に否認している。

しかし、右は、仙台高等裁判所昭和四六年五月二八日判決(昭和四三年(う)第一六六号事件)の判例と相反する判断をしたものである。

すなわち、右判例は次のとおり論ずる。

「大学は、学術の中心として、深くかつ広く真理を探究すべき専門的研究、教授の場としての本質から伝統的に自治が保障されてきたし、その機能は、自由にして創造的研究と教授にふさわしい学園としての環境と条件を保持することを中心的要請とする。それは、教授その他の研究者(原判決にいわゆる教員団)が自主的に決定し管理すべき権限と責任とを有するものであるが、学生は大学における不可欠の構成員として学問を学び、教育をうける者として、その学園の環境や条件の保持及びその改変に重大な利害関係を有する以上、大学自治の運営について要望し、批判し、あるいは反対する当然の権利を有し、教員団においても十分これに耳を傾けるべき責務を負うものと解せられる。」

右の点についての最高裁判所の判断はいまだないのであるから、この点で、上告理由の存すること明らかである。〈以下略〉

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